山梨市ルージュ・クサカベンヌ2005
山梨市日下部地区単一畑マスカット・ベリーA100%
限定493本  ¥1,785


山梨市日下部地区の未来型篤農家手島宏之氏が旭洋酒のすぐ裏で栽培するマスカット・ベリーA。一昨年から原料として提供していただいていましたがその質があまりにも素晴らしいため昨年は単一で、マセラシオン・カルボニック(以下MC)法にて仕込むことにしました。生食用として栽培されていますが完熟の目的でかなりの収量制限がされており、収穫前の9月中旬につまみ食いすると既に果皮が軟化して果肉まで色素がにじみ手が真紅に染まるほど。味もこの時期の一般的なベリーAとは異なり、酸味はほとんど感じられず強烈な甘み(仕込時糖度22°)と香が後を引きました。

マスカット・ベリーAは明治の終わりから昭和の初めにかけアメリカ系ブドウの強健さと欧州系の質を兼ね備えたワイン用品種の交配に心血を注いだ川上善兵衛によって交配された品種です。アメリカ系ブドウ特有のフォクシー・フレイバー(狐臭:ファンタ・グレープの香)の名残があり、ワイン専用種に比べると粒も大きくタンニンも粗いため本格的なフル・ボディにはなりませんが、病気に強く質・量とも比較的安定しているため「純国産」赤ワイン原料としては今後も重要な位置にあり続けることでしょう。しかし、山梨県の1農家当たりの単一品種栽培面積は10a単位と非常に狭く、条件の異なる多くの畑の混醸が前提となっています。また、ボリュームがあり仕込期間も長くなる甲州種の仕込を控え、ベリーAの収穫時期はそれほど吟味されず、完熟よりやや早い時期に収穫される傾向にあります。このような状況の中で、この品種本来の力は十分に発揮されておらず、交配品種であるというハンデもありワインのイメージは良いとはいえません。しかし今回、私達はこのワインを醸造したことでベリーA本来の「良さ」を実感することが出来ました。ブドウ品種の優劣に対する考えは人さまざまですが、品種の「良さ=個性」は良いブドウからしか生まれない、ということは紛れも無い事実です。このワイン、ルージュ・クサカベンヌは間違いなく、未熟な、あるいは病果の多いカベルネ・ソーヴィニョンより優れていると私達は考えます。※

MC法はボジョレ・ヌーボーでお馴染みの醸造法で、炭酸ガスの充満による果実成分の分解により独特のフルーティーな風味(香りはバナナやキャンディに代表される)を生み出す醸し方法です。といっても、最先端の技術というわけではなく、醗酵槽に収穫物をまるごと投入するしかなかった時代からの慣習がもととなりヌーボーの隆盛を通じて世界に広まったものです。この醸し方法では色素は抽出されてもタンニンはそれほど抽出されないため、もともとタンニンが期待できずフルーティーさを身上とするベリーAに向いているのではないか、また、この方法ではブドウ粒が丸のまま内部で成分分解することが結果を生む為、粒の大きいベリーAでは効果がでやすいのではないかと考えました。実際にやるのは初めてで商品化も未定でした。

既に醗酵している酒母(前もって収穫しておいた)をタンクの底にいれ、ブドウを房ごと投入。シートで2重に覆います。

電気毛布と投光器で熱をかけました。「35℃程度で4日以上密封」と教科書にはありますが、中心部の温度や進み具合は全くわからず勘に頼るしかありません。
結果、醸しは7日間に及び、圧搾後、残りのアルコール発酵を終えました。その後115Lのハーフ樽と一升瓶で熟成。味が落ち着き透明感がでてきたところで瓶詰を決めました。オリ引きは2回しましたがまだかなり濁っています。濾過すれば濁りはなくなりますが風味重視で無濾過・生詰めを断行。(濾過すると量も減ってしまいます。せっかく美味しいのにもったいないでしょう?)今飲んで美味しいワインなので瓶詰時の亜硫酸添加も最小限にとどめました。

バナナやイチゴジャムの他、シナモンなどスパイシーな香も強く口当たりは非常に滑らか。香は強いのですが、飲み進んでも不思議とイヤミがありません。善兵衛さんにも飲んでもらいたい、ブドウの力を感じさせてくれるワインです。

※ここで言っている価値は価格と単純には結びつきません。また、専用種の栽培に挑戦することは、ブドウ樹が地球に根ざしワインが風土を反映するものである以上、グローバルであることを宿命とするワインを真剣に志すならば避けて通れない道です。